大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和24年(行)163号・昭25年(行)1号 判決

原告 古賀英雄 外十一名

被告 大牟田市長

一、主  文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等は、被告が昭和二十四年十二月九日原告等に対して為した免職処分はいずれもこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、原告等はいずれも大牟田市の職員で同市役所従業員組合(以下組合という)の組合員であるところ、被告は大牟田市職員定数条例(以下条例という)が通過成立したのを奇貨とし、同条例に基くものであるとして、昭和二十四年十二月九日原告等をそれぞれ免職する旨の処分をした。然しながら右免職処分には次に述べる通りかしがあり、違法にして取消を免れない。

第一、本件免職処分は大牟田市と組合との間に締結せられている労働協約に違反する。すなわち、右労働協約第三十条の規定によれば、大牟田市職員の任免については、組合と協議の上これを決定する旨定められているところ、大牟田市長は政令第二百一号昭和二十三年七月二十二日附内閣総理大臣宛連合国最高司令官書簡に基く臨時措置に関する政令(以下政令という)の公布と同時に、一方的に右協約を無効とする旨を通告し、組合と全く協議を為さざるのみか、団体交渉すらも拒否して本件免職処分を強行したのであるが、政令の公布によつて前記労働協約そのものには何等の消長はないのであるから、本件免職処分が労働協約に違反する違法解雇であることは明である。

第二、本件免職処分は組合の弱体化を計らんとする底意のもとに組合幹部及び組合運動に熱心な者をねらい打ちに解雇した不当労働行為である。すなわち当時大牟田市は益々増大した事務処理のために、大幅の増員を必要とし、市当局においても、これまで屡々人員整理の必要がない旨を言明しておつたにも拘らず、今回突如として条例を制定し、組合の副執行委員長、執行委員或は代議員等として最も熱心に組合運動に挺身してきた原告等を免職処分に付したのであつて、これ等の事実に、当時大牟田市の財政は人件費を削減しなくとも他に充分な財源があつたこと本件免職処分の前後を通じ相当数の臨時雇を採用していること被整理者の大部分が組合幹部又は組合運動に熱心な者であつたこと及び本件免職処分に当り、被告において何等の具体的な基準を示さなかつたこと等の事実を綜合すると、本件解雇処分が名を条例による過員整理に藉りながら、その実、組合幹部又は組合運動に熱心であつた者を排斥し、組合の弱体化を企図せんがために為された不当労働行為であることは自ら明かといわねばならぬ。

第三、本件免職処分は任免権の濫用である。すなわち大牟田市職員は同市の職員分限条例に特段の定めがある場合の外、その意に反し免職せらるることのないことは、同条例の明定するところであるところ、原告等はいずれも最も良心的にして良く上司の命に服従し、忠実に業務を担当し、又多数の組合員の支持を得て組合の幹部となり、業務上の隘路を打開して能率増進のために努力研究を重ねてきた者であつて、これを「能率の上らない者」又は「能率の上らないようにさせた者」であるとして免職処分に付するが如きことは、明に被告の任免権の濫用であり、又このことは本件免職処分が組合幹部をねらい打ちにした不当労働行為であることの自らなる証左ということができる。

以上の通り本件免職処分は違法にして取消を免れないものであるから、ここに原告等は被告に対し右免職処分の取消を求めるため本訴請求に及んだと陳述した。

(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁として、原告等主張事実中、原告等がいずれも大牟田市職員組合の組合員であること、被告が昭和二十四年十二月九日条例に基いて原告等をそれぞれ免職処分に付したこと及び右免職に当り被告が組合との協議を遂げなかつたことはいずれもこれを認めるが、その余の事実はこれを争う。被告が右免職処分を行つたのは次の理由に基く止むを得ざる措置であつて、その間原告等主張の如き何等のかしもない。すなわち近時いずれの地方自治体においても、諸物価の高騰と人件費の膨脹により益々窮迫してきた財政状態を打開し、その健全化を計るために、あらゆる努力が払われているのであるが、当大牟田市においても、その一環として昭和二十四年十二月五日市議会において条例が制定され、これによつて不要の人員を整理し、以て市民の負担軽減を計ることになつた。ところで右条例によれば大牟田市職員の総定員は従前の千四百五人から千三百三十一人に削減され、定員数において七十四人の減員となつたのであるが、当市においては今日あるを予想し可及的に出血を避るべく、極力欠員の補充を見合せてきた結果、従前の定員数によれば三十二人の欠員であつたけれども、なお新条例によれば差引四十二人の過員となり、これを退職せしむるの止むなきこととなつた故、まず退職希望者をしてこれに充てる方針を採り、その余の被整理者は部課長会議の定めた「能率の上らない者」及び「能率の上らないようにさせた者」という基準に則つて一応の線を出し、更に全体として慎重なる協議検討の末に決定をみたものであつて、原告等主張の如く組合幹部及び組合運動に熱心な者のみをねらい打ちに整理の対象としたというようなことは断じてない。而して原告等は本件免職処分は大牟田市と組合との間に適用せらるべき労働協約の違反である旨主張し、右協約の第三十条には「職員の任免については組合と協議する」旨の定めはあつたけれども、これは政令の制定公布によつて昭和二十三年七月三十一日以降その効力を失うに至つたものであるから、被告が組合と協議を経ることなく免職処分を行つたからといつて協約違反の問題を生ずる余地はない。又右免職処分が原告等主張の如く不当労働行為でないことは前述してきたところによつて自ら明かというべきのみならず、条例による過員整理と、分限条例に基く免職処分とは全く別の問題であるから、本件免職処分を目し、分限条例に基く任免権の濫用であるとする原告等の主張は理由がない。

以上の通り原告等の本訴請求はすべて理由がないからこれを棄却され度いと陳述した。

(立証省略)

三、理  由

原告等が大牟田市の職員で組合の組合員であること及び被告が昭和二十四年十二月九日条例に基いて原告等をそれぞれ免職する旨の処分を為したことは、いずれも当事者間に争がない。それで右免職処分に果して原告等主張の如き違法の廉があるか否かについて調べる。

第一、労働協約違反の主張について

成立に争のない甲第三号証によれば大牟田市と組合との間には昭和二十三年六月三十日労働協約が締結せられていて、その第三十条第一号に「従業員の任免は組合と協議の上これを決定する」旨規定せられていたことが明であるが、右協約は昭和二十三年七月三十一日施行の政令により同日以降その効力を失うに至つたものといわねばならぬ。何故ならば同政令には、公務員はすべて同盟罷業、怠業的行為等の脅威を裏付けとする拘束的性質を帯びた、いわゆる団体交渉権を有しない、現に繋属中の国又は地方公共団体を関係当事者とするすべての斡旋、調停又は仲裁等に関する手続は中止せられ同盟罷業、怠業的行為等国又は地方公共団体の業務の運営を阻害する争議手段をとつてはならぬ旨規定せられているのであるが、その趣旨は要するに公務員の全体奉仕義務を強調し、国又は地方公共団体とその職員の関係が一般の私企業の場合における使用者と労働者とのそれとは異つて、権力服従の公法関係を以て規律せられることを明にしたものであつて、このことから推すならば、公務員が国又は地方公共団体に対して一般の私企業の場合と同じく自由対等の立場において締結し、両者が自由対等であることを前提として存在の意義を有する労働協約の如きは、明に政令の趣旨に矛盾し到底その効力を維持し得べくもないと認められるからである。以上の通り前記労働協約は政令の施行によつてその効力を失うに至つたものと認められるから、たとえ被告が組合との協議を経ることなく本件免職処分を行つたからといつて、協約違反の問題を生ずる余地はないと解するを相当とする。

第二、不当労働行為の主張について

原告等は本件免職処分は名を条例に基く人員整理に藉りながらその実組合幹部又は組合運動に熱心な者をねらい打ちにした不当労働行為である旨主張するから考えるに、原告等のうちA、B、C、D、Eを除くその余の原告等がいずれも組合幹部として組合運動に熱心であつたことは弁論の全趣旨に徴し明であるけれども、これ等の者が組合幹部として組合運動に熱心であつたことの故を以て、条例に基く整理を免れ得べき特権を有する訳はないのであつて、それぞれ後記認定の通り整理基準に該当する以上は、それが組合運動に熱心であつたことに因ると否とに拘らず他の一般の職員と同様の条件の下に整理の対象となることは止むを得ないというべきところ原告等の前記主張に添う証人a、bの各証言は後記各証拠に比照して措信し難く、却つて成立に争ない甲第五号証、乙第一、四号証、証人cの証言によりその成立を認め得る乙第三号証の一乃至十一に右証言及び弁論の全趣旨を綜合すると、昭和二十四年十二月五日大牟田市議会の制定した条例によれば、同市職員の総定員は従前の千四百五人から千三百三十一人に削減され定員数において七十四人の減員となり欠員の三十二人を差引いてもなお四十二人を過員として整理するの止むなきこととなつた故、まず被整理者の基準として、能率の上らない者及び能率の上らないようにさせた者という基本線が決定され、続いて部課長会議においてこれを一、出勤成績の善くない者二、勤務成績の善くない者三、職務怠慢者四、公務執行上支障のある者五、能率の低い者六、事務に経験の浅い者七、その他市職員として適格性に欠ける者の七項目に具体化し、それぞれその部課における一応の該当者を持寄つた上更に全体から綜合的な検討を加え、該当度が高いと認められる者をして整理に充つる方針が決定され、原告Fは前記基準の二、三、四Gは、二、三、四、Hは一、二、六、Iは二、三、Jは二、四、Kは二、七、Lは二、三、Mは三、四、Nは三、Oは一、二、Pは一、六、七、Qは一、三、五にそれぞれ該当するものとして本件整理の対象になつた事実を認めることができる。原告等は当時大牟田市においては、人件費を削減しなくとも他に充分な財源があり、又本件免職処分の前後を通じ、相当数の臨時雇が採用されていること等種々主張を為すのであるが、このような事実を確認するに足る証拠はなく(前顕甲第五号証によれば二ケ月以内の期間を定めて雇傭される臨時雇は条例の定める定員として整理の対象になつていないことが明であるから、たとえ当時相当数の臨時雇がいたにしても本件免職処分を違法と認めることはできぬ)その他前記認定を覆して本件免職処分の不当労働行為性を推測せしめるに足る何等の資料もないので原告等の前記主張はこれを採用することができない。

第三、任免権濫用の主張について

原告等は大牟田市職員は同市職員分限条例の定めるところにより、一定の事由がなければその意に反し免職せられざる保障があるところ、原告等は最も良心的にして上司の命に服従し、忠実且積極的に公務を担当しているのであつて、これを免職することは被告の任免権の濫用である旨主張するのであるが、右分限条例による免職処分と条例に基く人員整理のための免職処分とは全く別の問題であるから、原告等の右主張は理由がない。尤も定数条例に基く人員整理は経費の節約を計ると共に事務の能率化をもねらつているものと認めねばならぬから、著しく能率の悪い者を整理せず殊更に能率の高い者から整理するというのであれば矢張り免職権の濫用となると考えられないでもないが本件においては、このような事実を認むべき証拠がなく却つて原告等が前段認定の通り整理基準に該当する者である以上は、原告等の前記主張の理由なきことは、自ら明かといわねばならない。

以上第一乃至第三に説明した通り本件免職処分には原告等主張の如き違法の廉はないから、これを違法として取消を求める本訴請求を理由なきものとして棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 野田三夫 入江啓七郎 矢頭直哉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!